気温が下がるこの時期に強い女子選手と言われて、まず名前が浮かぶのが松本だ。2016年、2018年にクイーンズクライマックスを制していることからも納得がいくだろう。ここまでは順風満帆だったが、2022年から歯車が大きく狂い出す。立て続けにフライングを切ってしまい、それによって思い切ったレースができなくなり、1月から10年半ぶりにB級降級と地獄に突き落とされたのだ。落ちるところまで落ちたが、いつまでも落ち込んでいる暇はない。しっかりと前を向いて進んでおり、今期勝率は6点ペースと持ち直しつつある。あの輝く表舞台でもう一度戦うため、過去の栄光にしがみつかず、新しい自分を出していく。
攻撃力やターンの切れは女子トップクラスと評されていたが、いかんせんスタート事故でリズムを崩すことが多く、なかなか上に行けなかった。そこで「フライングをしないように心掛けた」とモデルチェンジを決断し、さらに整備力と旋回力を磨くことに力を入れ、リズムを崩す要因となってきたスタート事故も2022年以降はなし。そして昨年、遂にPGIクイーンズクライマックス初出場を果たし、なんといきなりティアラを戴冠。積み重ねてきた努力が、最高の舞台で報われる形となった。今年は新女王ということで否が応でも注目される状況におかれる。こうしたプレッシャーをはねのけて、さらに強い選手になってくれることを願ってやまない。
2月びわこGⅡレディースオールスターで清水と話す機会があった。たわいもない会話もしながらボートの話になり、「東京3場で最も好きなレース場は?」と質問すると、「江戸川です」と悩まず即答してくれた。なんでも2012年12月の男女W優勝戦でデビュー初優出・初優勝を挙げたのが大きな理由の一つらしい。江戸川は日本一の難水面として知られるが、「いかに恐怖心を持たずに走れるかです」と乗りこなす秘訣を教えてくれた。さて、そんな清水の近況だが、2月関東地区選で混合GⅠに初出場を果たすも、連に1度も絡めずじまいに。「レベルが違いました」と全てで圧倒されたが、ここで得た収穫と課題を胸に刻み、成長へとつなげる。
藤原のボート生活を語る上で避けて通れない事件が起きたのは、2020年2月・尼崎ヴィーナスシリーズでのことだった。先頭で走っていたが、エンスト艇の失格を助けるため減速してゴール。これが問題視され、褒賞懲戒審議会から1年間の出場停止という重い処分が下されたのだ。「今よりもっと強くなって復帰する」と強い思いを持ってこの期間を過ごし、2022年には自己最多の年間4Vをマークとたくましくなって戦線に帰ってきた。「平和島は好きな水面」と公言しているが、水面実績でも通算7優出1Vと東京3場の中で最も好成績を残している。地獄を見てここまで這い上がってきた藤原を、ぜひ平和島から推薦して欲しい。
デビュー時は愛知支部所属だったが、結婚のタイミングで東京支部に移籍。移籍するやいなや成績が大きく向上し、東京支部の女子選手を引っ張る存在になった。東京3場の中で、移籍以前から最も走っているのが多摩川の343走(今年2月末時点)であり、平和島が247走、江戸川が72走の数字を見れば一目瞭然の多さである。移籍してから最も早く優勝したのも多摩川だ。もちろん愛着ある多摩川では好走が多いが、最近はどのレース場でも持ち味を発揮しており、舟券貢献度も高い。特に開催地である浜名湖は2020年にオールレディース、ヴィーナスシリーズで連続Vを飾るなど好相性。GⅠでも何かやってくれそうな期待を持たせてくれる。
切磋琢磨してきた同県同期の長嶋万記が昨年は女子特別戦で2Vと話題をかっさらったが、過去の出世争いでは三浦がリードしてきた。その象徴が、第1回賞金女王決定戦での優勝だ。そこからは長期休養もあり、タイトルとは無縁だが、近況のレースぶりを見ていると、近いうちに表彰台の真ん中に立つのではと感じさせられる。なぜなら、昨年は年間4Vをマークし、PG1レディースチャンピオン優出、そして女子のベスト12が争う年末決戦にも8年ぶりに出場し、見事ファイナル進出。年が明けても3月丸亀オールレディースで優勝と完全に復帰前の力を取り戻しているからだ。長い沈黙を破り目覚めた初代女王の動向を、今後も注視していきたい。
蒲郡と常滑は通算では似たような成績だが、2021年以降の3年間に限れば蒲郡が5優出1V(常滑4優出0V)、その中には今年のGⅡレディースオールスター優出もあり、活躍している印象が強い。そんな宇野のインタビューの受け答えなどを見ていると、やや素っ気なく、無愛想な選手だと思われがち。それでも、時折見せるキュートな笑顔でファンの心をつかんで離さない。ひとたび水面に出れば、リスクを恐れず攻めに徹する。これもまた支持される理由の一つだろう。1月からA2級に降格したが、2月戸田ヴィーナスシリーズで今年初優勝と上昇中。蒲郡では年末にPGⅠクイーンズクライマックスがあり、これがモチベーションになっていそうだ。
常滑といえば池田浩二を思い浮かべる人も多いだろう。それもそのはず。通算28Vと圧倒的な強さを誇るからだ。対して女子はというと、細川が最近の常滑で好成績を残していることを覚えておきたい。常滑はデビュー地であり、昨年12月GⅢオールレディースで遅ればせながら待望の初優勝を飾ると、今年4月にも同タイトル戦で優勝。これまで勝てなかったのが嘘のような活躍ぶりだ。また、その4月戦では後輩選手に積極的に指導する姿があった。「下から教わることもある。新人時代を思い出すこともあるし、勉強になります」と固定観念にとらわれず、たゆまぬ向上心を持つこの姿勢こそが、細川の強さの秘密なのだ。
伸びに特化した攻撃スタイルでまくりを量産することから、ついたあだ名は「まくり姫」。ボートレースCMのキャラクターモデルにもなった。人気もさることながら、実力も兼ね備える。昨年4月のGⅠ津71周年(GⅠツッキー王座決定戦)を覚えているだろうか。このシリーズでは予選を11611着で突破し、準優もインから完勝。迎えた優勝戦。2コースからジカまくりを敢行するも、峰竜太にズブリと差され、懸命に追い上げるも準Vと悔しい結果に。しかし、鮮烈な走りはファンの記憶に残ったはずだ。あれから1年。今年は2月、3月にフライングを切ってしまう苦しい年始めとなってしまった。ただ、焦っても仕方がない。この苦しみを無駄にせず、強くなって帰ってきて欲しい。
「先輩との差があまりに大きくて勝負にならない」と痛感した新人時代。ひたすら練習を重ね、デビュー4年目の2020年11月芦屋混合戦で初V。現在ではネクスト女王候補と呼ばれるまでに成長を遂げた。昨年は3月に念願だった地元の三国GⅠ周年初出場を果たすと、準優勝戦3着で優出まであと一歩に迫る好走を見せた。この時のことを「勉強になりましたし、ボートレースがまた一段と楽しくなりました」と、晴れやかな表情で語っていた姿を鮮明に覚えている。今年は5月多摩川ボートレースオールスターで初めてSGの舞台に立つことができた。憧れだった檜舞台での経験は、大きな財産となり、もっと彼女を強くするだろう。
ボートレースを知らない人でも、遠藤エミの名前は聞いたことがあるはず。2022年3月の大村ボートレースクラシックで、横西奏恵や寺田千恵が届かなかった「女子SG覇者」となった選手だ。この快挙はボート界だけでなく、多くのマスコミで取り上げられた。「女子がSGで勝つのは無理」というボート界の歴史を塗り替えた遠藤だが、プロとしてのキャリアは最初から華々しかったわけではない。養成所での成績は下から数えた方が早く、お世辞にも目立つ存在ではなかった。それが、今や女子最強レーサーだ。「もっと強い選手になりたい」と語る遠藤が見据えるのは、女子レースではない。峰竜太や池田浩二らトップ級と同じ、SGグランプリだ。頂上決戦出場へ、野心を持って走り続ける。
7月から産休による長期休養期間を除けば、デビュー3期目の2009年前期以来となるB1級降格が決まった。昨年9月多摩川GⅢオールレディースの優勝戦でフライングを切ったことが全ての始まりだった。気持ちを切り替えられなかったのか、続いて参戦した浜名湖でもフライング。嫌な流れを払拭できぬまま、鎌倉の2023年は終了した。再起を期して臨んだ今年だったが、3月芦屋でまたしてもフライング。年が変わってもトンネルを抜け出せずにいる鎌倉だが、F休み明けの5月福岡で3コースまくりから最速タイムを更新。さらに翌月地元の住之江GⅢオールレディースで準Vと復調の兆しを見せた。トンネルの先にある光が見えるまで、鎌倉は前に進み続ける。
SG出場2回など長年に渡って女子の第一線で活躍を続ける中谷だが、不思議なことにGⅠ・GⅡなどのタイトル獲得歴はない。しかし、女子トップクラスの実力を持っていることは確かだ。3年ほど前は病気に見舞われた関係で成績も下降していたが、体調が整い始めた昨年は年間勝率7.00、6優出、2Vと全盛期に近い数字を残した。今年は4月まで優出すらできなかったが、5月の若松GⅢオールレディースで遅ればせながら今年初優出を決めてV。翌月の住之江GⅢオールレディースでも優出と、後半戦に向けてリズムを整えてきた。年を重ねて伸びてくる選手はいっぱいいる。中谷もいつか大輪の花を咲かせてほしいものだ。
姉・育未の影響を受け、飛び込んできたボートレースの世界。デビュー後は水神祭をあげるまでに約1年2カ月もかかり、「3年以内にA級」という目標を達成できず、伸び悩んでいた。そんな時に出会ったのが、同支部の先輩・菅章哉。菅からレースへの向き合い方などを学び、これを機に成績もジャンプアップ。その形の一つとなって表れたのが、昨年5月の鳴門男女W優勝戦での初Vだ。このVが西岡にとって特別な1勝となり、ついに今年7月から初めてA1級(勝率6.43)に昇格することもできた。まだまだ発展途上ではあるが、裏を返せばそれだけ伸びる要素もあるということ。どんな未来を歩むのか。西岡のこれからは、間違いなく明るい。
平山智加にとって昨年は悔しいシーズンだった。8月津PGⅠレディースチャンピオンは優勝戦1号艇を勝ち取りながら、スタートで立ち遅れて4着に終わり、3年ぶりのGⅠVはお預けとなった。さらに暮れのPGⅠ多摩川クイーンズクライマックスでは、次点でファイナル進出を逃す憂き目に遭うなど、運にも見放された。その平山と今年の年頭に会った際、このことに触れると、「去年より強い気持ちを持って、年末に照準を合わせています」と今年に懸ける抱負を語ってくれた。その言葉通り、今年は苦手とする上半期で3Vと、昨年のモヤモヤを払拭する走り。この調子を維持していけば、近々のGⅠタイトルを獲得できるはずだ。
住之江、丸亀、児島の3場で最速タイムを出している守屋美穂だが、SGとGⅠの準優勝戦フライングにより、今大会の出場は不可。寂しいことだが、嬉しいことに岡山支部には守屋以外にも最速タイムを出している選手が2人もいる。田口節子(三国)と藤原早菜(徳山)だ。藤原はデビュー丸4年の5月にデビュー初優出を果たした今後が楽しみのルーキーだが、やはり注目すべきは田口。女子選手でただ1人の全24場制覇者であり、PGⅠクイーンズクライマックスでの連覇実績も田口だけだ。今年は8月までVなしと思いのほか苦戦しているが、昨年は10月~12月までに3Vと年の瀬が近づくにつれ調子を上げた。今年も本領発揮はこれからだ。
海野で思い出されるのがGⅠ初出場となった2000年の丸亀女子王座決定戦(現レディースチャンピオン)。そこでいきなり優出を果たし、将来は大物になると確信した人も少なくなかったはず。その読みは的中。4年後の多摩川大会でGⅠ初Vを手にし、それからはSGやGⅠの出場回数が増え、スキルアップ。2016年の津大会で2度目の女王載冠を成し遂げ、女子トップ選手としての地位をさらに確固たるものにした。50歳となった今もまくりを中心とした攻撃スタイルで、ファンの心をとらえている。6月三国で4コースからまくってVを決めたレースは、これぞ“海野"というべき勝ち方だった。まだまだ若手に負けない走りを見せ続ける。
デビュー水面の下関ではいまだVはないが、徳山では2回のV実績がある。記憶に新しいところでは、今年8月のヴィーナスシリーズ。PGⅠレディースチャンピオンの裏開催だったこともあり、A1級レーサーが不在の混戦シリーズだったが、初日から軽快な走りを披露し、10戦7勝と圧倒して約2年半ぶりのVを飾った。だから、徳山=佐々木と連想する人も多いだろう。そんな佐々木と一度話したことがあるが、とにかく人間性が素晴らしかった。レースでは無事故完走を心掛け、危ないシーンを回避した選手には褒めるらしい。甘いと思われるかもしれないが、辛い過去を経験したからこそ、この考えには説得力がある。これからも安全を第一に走る。
養成所リーグ勝率1位、そして女子では史上6人目の養成チャンプに輝いた清水愛海。この経歴を見ると誰もが天才と思うが、実はそうではない。養成所では同期の中で1番転覆したというのだ。しかし、これにへこたれずどん欲に挑戦し続けた結果、実を結び、首席で卒業できたのである。ただ、卒業後は養成チャンプのプレッシャーがあったのか、気合が空回りして事故も多く、初勝利までは1年を要した。近況も高事故率で攻めるレースが出来ず、思い描いていたボート人生を歩めていないが、持っている能力はピカイチ。デビュー2年9カ月でGⅠ初参戦したことからも、それがわかる。じっくりと土台を固め、開花する瞬間を待ちたい。